2022年はCFCLにとって、パリ・ファッションウィークへの参加、B Corporation認証取得、直営店舗の開業と、飛躍的かつ多事多端な1年となりました。それでも変わらず、これまでこちらのレポートでもお伝えしてきた、CFCLを支えていただくステークホルダーにどう貢献していけるかという考えを大切にし、私たちにできる取り組みを続けています。設立から4年目を迎え、急速な成長の中、多岐に渡る活動をこのCONCIOUSNESS REPORTを通じ継続して皆様にお知らせしていきたいと思います。
世界的な舞台で活動する機会をいただいた中で迎えた2023年、さらに直営店2店舗目をオープンしました。インバウンド顧客も年初から増加基調ではあるものの、COVID-19パンデミックによるサプライチェーンへの影響や、同じく昨年から続くロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格や物価の高騰、アフリカの干ばつや欧州の水不足などの異常気象など、世界的な舞台は昨年に増して難しい局面が増えているように感じざるを得ません。
私たちとしては、日本国内生産という軸足に立ち返り、その技術や強みを最大限に活かした責任ある取り組みに一つ一つ丁寧に向き合いながら活動することに変わりありませんが、その中でも新たに行った多数の試みのうち、今回は以下の3項目の内容についてご報告します。
1. LCA(ライフサイクルアセスメント)
ご好評いただいているMILAN RIBやPOTTERY、FLUTEDシリーズのカーディガンなど、新たな商品の検証結果
2. 素材の調達
全商品における地球環境や基本的人権への責任が保証された素材の使用率
3. コミュニティへのベネフィット創造
・B Corp communityとの交流
・B Corp Monthへの参加
・ジャパンサステナブルファッションアライアンスへの加入
これまでのLCAでは、衣服の付属品としてよく見られる様々なパーツ(ボタンやファスナー、裏地など)が使用されたアイテムは、その算出対象外としていました。極限まで削ぎ落とした最もミニマルな衣服が、CFCLの主軸商品でもあったためです。
一方で、より多種多様なクリエイションができることや、衣服の寿命をより長くする上で耐久性を高めることにおいて、必要最低限のパーツを備えることも必要と考えてものづくりを進めています。
そのため、VOL.5では対象範囲を拡大し、それら「パーツ付きのアイテム」においても初めて分析を行いました。
これらパーツ付き衣服のものづくりの構造(あるいは、ビジネスモデル)が、温暖化ガス排出という環境負荷をどの程度生み出しているか、私たちの現在地を理解するとともに、今後の課題も明確になったことで、さらなるチャレンジを進めてまいります。
世の中に存在するほとんどの衣服は、これらのパーツを多用する事が一般的ですが、環境影響を判断するための数値化は殆ど事例がないため、今回の私たちの評価分析の成果が、アパレル業界全体での一つのベンチマークになれば、と考えています。
VOL.5 GHG排出量の算定と分析
MILAN RIB JACKET 2: 14.08kg-CO2e / 1pc
MILAN RIB PANTS 2: 15.81kg-CO2e / 1pc
2022年10月のCFCL直営店開業以降、ご試着いただく機会が大幅に増えたことでメンズの主力商品となっているMILAN RIBジャケットとパンツのセットアップシリーズ。これら製品は、これまでLCAを実施してきたアイテムと比較して、ボタン、ファスナー、裏地、胴回りの各種アジャスター(紐やテープなど)やパイピングと、CFCLの商品群の中でも最もパーツが多いアイテムです。
今回のLCAでは、上記全てのパーツを含めて、それぞれの原料調達、部品・素材加工、本体組立て、輸送、販売、お客様での使用、着用後の最終処分、に関わるサプライチェーン各社にご協力をいただき、上記の温暖化ガス排出量を算定しました。
・大きく6つのパーツから構成
(前身頃や後身頃などの衣服本体の糸、裏地、ボタン、ファスナー、腰回りの紐など)
・6つのパーツにおける5つの原料素材
(再生ポリエステル、原油採掘から行うヴァージンポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、アクリル)
・LCAの実施にあたり直接コミュニケーションをとった企業 11社
・11社の背景で、直接・間接的にご協力頂いた企業 約200社
日本では、服一着あたり平均しておよそ25.5kg-CO2eの温暖化ガスが排出されるというデータと比較すると(*1)、およそ40%低い温暖化ガス排出量で生産されています。
課題:日本国内での生産、再生素材の使用、また一部は再生原料も日本国内で調達するなど、低炭素に抑えるものづくりに取り組んでいますが、分析の結果、以下の課題を発見しました。
①温暖化ガス排出量の約40%は再生素材使用率が18~19%と低いことが最大の要因であるため、まずはPETボトル再生素材の使用率を100%まで高める必要がある。
②生産工場において自然エネルギー(太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギー)を導入する。
対策:①については、すでに昨年より素材メーカーやニッティング工場と課題の共有と試作を開始。量産テストを終え、VOL.6より正式に採用したアイテムの生産に既に着手しています。
*1 環境省「ファッションと環境」調査結果
POTTERY CARDIGAN 1: 1.65kg-CO2e / 1pc
CFCLオフィスと同地域である東京の工場にて生産をしているカーディガンですが、昨年より安定的に生産ができる建屋に転居した後も、コスト負担のリスクがある中で、工場側の強い意志により、石炭などの温暖化ガス排出の多いエネルギーではなく太陽光や風力を中心とした自然エネルギー100%を直ちに導入し生産されたことで、温暖化ガスの発生を極めて低く抑えていることが叶いました。
糸や主要な付属品などは全て再生素材100%でできています。
FLUTED CARDIGAN 1: 6.73kg-CO2e / 1pc
CFCLにおいてPOTTERYシリーズに次ぐ主軸のFLUTEDシリーズは、日本でも有数のニット産地である新潟の工場に製造を委託しています。
このカーディガンと共に、上記のジャケットやパンツなど多くのアイテムが非常に高い能率で生産されており、FLUTED CARDIGANは、POTTERYシリーズに比べておよそ3倍の編み時間がかかり、重量も3倍ありますが、極めて低い不良率と高い納期遵守率を誇っています。
今年からは、太陽光や風力を中心とした自然エネルギー100%の導入に向けてCFCLと検討を進めています。
※算出において参照としたデータベースや文献:
・IDEA2.3 (LCIデータベースIDEA version2.3, 国立研究開発法人産業技術総合研究所安全科学研究部門社会とLCA研究グループ, 一般社団法人サステナブル経営推進機構)
・Eionet Report – ETC/WMGE 2021/3 Greenhouse gas emissions and natural capital implications of plastics (including biobased plastics) (ETC_2.1.2.1._GHGEmissionsOfPlastics_FinalReport_v7.0_ED)
・The Association of Plastic Recyclers White Paper: Virgin vs. Recycled Plastic Life Cycle Assessment Energy Profile and Life Cycle Assessment Environmental Burdens. May 12, 2020
・Higg Product Tools Material Sustainability Index
・LCAを考える(一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI))
「76.72%」
100%再生であり、なおかつ生産現場の人たちの健全な労働環境を保証する素材、オーガニック素材であることを保証する素材、これら第三者機関から認証を得た素材の総使用率はVOL.5で一層拡大し、同じ春夏シーズンであるVOL.3(2022年)との比較で10.38%増、過去発表したコレクションの中でも最も高い76.72%となりました。
パリ・ファッションウィークへの参加に伴い、新たなクリエイションに挑戦した結果、前年同シーズンのVOL.3と比べ型数は3倍以上に急増しました。シースルーやストレッチ性のある糸を使用したアイテム、サコッシュやバッグなど、デザインの幅、バリエーションの幅が広がり、世の中の衣服で多用される一般的な腰回りのバンドやポケット裏地など、ナイロンやポリウレタンといった再生素材ではないヴァージン素材(*2)を使うこともありますが、その中にあっても、これら認証素材を積極的に使用すること、自然エネルギーで生産する工場との積極的な取り組みに変わりはありません。
商品数や売上規模を拡大させること自体は、大半の企業が行うことです。一方で、それはこれまでのビジネスがやってきたことであり、循環型社会、低炭素社会、格差や差別の解消、といった肥大し続ける問題に対応するための新しいビジネスの形を構築するには、売上や事業規模の拡大と同時に、地球や社会問題の解決も進展させ、深め続けることが極めて重要なミッションとなります。B Corpでは、そのように長期的にコミットできるかどうかを「ガバナンス」のレベルとして評価します。ただし、再生素材は流通量の多いポリエステルであっても日本の市場では10%程度でヴァージン素材に比べて価格がおよそ10~20%高く、自然エネルギーは石油石炭などの温暖化要因エネルギーに比べて価格がやはり10~20%高い、というのが市場の現実です。これは、まだ資金的に余裕のない私たちCFCLや、工場各社にしてみれば死活問題です。その中でそれらの選択肢を取り続けることは非常に難しいですが、CFCLはまだ業歴3年。これをいかに本質的に持続させられるか、チャレンジを続けていく必要があります。
あらゆる全ての素材やエネルギーが循環型で再生される社会を展望するとき、それは容易ではありませんが、明るい変化も着実に起きています。VOL.1の頃と比較すれば、メーカーや商社から提案いただける適正な素材の種類も数倍に増えていることもその一つです。各社で進む開発や、その投資姿勢に改めて敬意を表します。
すでに、サンプル試作を終えているVOL.6の商品では、新たな再生ポリエステル糸の使用が始まります。今回の高い使用率を上回れるよう、企画チームと工場各社が緊密に連携してものづくりを進めいきます。
*2 プラスチックであるポリエステル製の糸で、原油を一から採掘して生産する作り方。温暖化ガスの排出が、再生素材に比して平均50%以上高いという研究結果が主流。
1. B Corp community
昨年7月にB Corpとして認証されて以降、国内外のB Corpや、B Corpに関心が高い企業や学術機関、B Corpのムーブメントとベクトルが合致する法人や個人の方々とのコミュニケーションが活性化しています。また、日本国内のB Corp communityでは2ヶ月に一回の頻度でオンライン会合があり、各社の取り組み事例、課題、ビジネスポテンシャル、ケーススタディなどが業界の垣根なく幅広く話されています。互いにセミナーを開催したり、協働プロジェクトも派生するなど、今後の新しいビジネスの在り方を感じることができます。世界的な水準としての各社の新たな取り組みやビジネスモデルは、地球環境、地域社会や人の多様性、働き方などにおいて、2021年から日本政府が提唱する「新しい資本主義」のベンチマークとして内閣官房の方々とも共有され、意見交換の場が複数回持たれています。
2. B Corp Month
毎年3月は、世界各国でB Corpが様々な形で会合し、イベント、ネットワーキング、商談などが多様な形で開催され、様々な取り組みが新たに生まれる場となります。
日本では、2023年3月11日(土)東京都渋谷区の100BANCHにて、B Corp Month JAPANが初開催され、日本に本社あるいは拠点を持つB Corp計22社、支援組織の方々、ボランティアの方々が一同に会しました。リアルな場でのビジネスやプロダクトの出展や紹介がされたほか、オールバーズ米国本社からの参加によるパネルディスカッションも行われました。
CFCLは、株式会社ファーメンステーションや、パタゴニア日本支社、ダノンジャパン社など、B Corp企業に加え、一般来場(予約制)された多くの企業やメディア、行政も交えたオープンディスカッションにて司会を務めさせていただきました。
“Beyond”という世界共通のテーマが掲げられた今回のB Corp monthにおいて、より良いベネフィットをより広く生み出すためのビジネスとして、どのように透明性あるサプライチェーンを構築していけるか、という点にフォーカスしてディスカッションを展開いたしました。
これらの活動の短期的、長期的な成果に関しては、このCONCIOUSNESS REPORTにおいて、随時ご報告させていただく予定です。
3. ジャパンサステナブルファッションアライアンス (JSFA)
CFCLは、2023年1月よりジャパンサステナブルファッションアライアンス(以降JSFAと記載)という、ファッション関連事業に携わる企業が協力してサステナブル・ファッションに向けた取り組みを行うアライアンスに加入しました。
2050年を目標に、各参加企業が協力し合いカーボンニュートラル、ファッションロスゼロの実現、及び関連する諸問題の解決に向けて活動してまいります。
今後CFCLのCONCIOUSNESS REPORTでもJSFA活動進捗を随時ご報告していく予定です。
*JSFA HP:https://jsfa.info/#about