今回で6回目のコレクションを迎え、パリ・ファッションウィークへの参加も間もなく3年目に突入します。新たなニットウエアの表現に挑戦していくなかで、商品の型数や量産も増加の一途にある中、これまでは使用比率としては小さかった動物性繊維や植物性繊維も扱う量が増加しました。これらの素材を調達する過程において、課題として認識し挑戦するべきことは何か、関わるステークホルダーは誰で、どのような問題を抱えているかなど、私たちがこれまで以上に責任を持つべき領域はより広く、深くなってきています。
そこで、今回私たちが新たに行った活動を以下の3項目にわけてご報告します。
1. 素材の調達
地球環境および生産者の労働環境への責任が保証された素材の使用率向上
2. LCA(ライフサイクルアセスメント)
動物性・植物性繊維の使用に関連する動物福祉や環境負荷、生産現場の課題、および改善の方向性
MILAN RIBシリーズにおける再生素材使用率100%への移行
3. コミュニティへのベネフィット創造
動物性繊維の調達に関わるコミュニティ・ステークホルダーについての実態調査
*1:GRS(グローバル・リサイクルド・スタンダード)は2008年にControl Union Certificationによって策定され、2011年にTextile Exchangeに譲渡された認証プログラムです。GRSは、リサイクル含有物、加工流通過程管理、社会および環境慣行、化学物質規制の第三者による認証要件を設定する、国際的な製品基準です。
*2:GOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)は代表的な国際基準策定機関によって、原料の収穫から環境に優しく社会的に責任のある製造を経て、消費者に信頼できる保証を与えるラベリングに到るまで、「繊維製品が正しくオーガニックである」という状況を確保する世界的なルールを定めるために開発された国際的な世界基準です。
*3:RCS(リサイクルクレームスタンダード認証)は、最終製品に含まれる原材料に5%以上の再生材料を含んでいるかどうかを審査する国際認証です。
認証素材の高い使用率を維持し、地球環境保全への責任を徹底した結果、今コレクションの地球環境および生産者の労働環境への責任が認証された生産原料の使用率は「84.1%」になりました。
図1をご覧いただくと、再生ポリエステルの次に多く使用している素材は、ウール(10.39%)に次いで、キュプラ(5.1%)でした。同じ秋冬シーズンであるVOL.4(76.5%)と比較すると、およそ7.6%増、使用重量は2.14倍まで向上させることができました。品番数で表すと、VOL.4の111品番からVOL.6では195品番まで増えました。195品番中、182品番が衣服の全てまたは一部に認証素材を使用していることになります。
今回認証素材の使用率が向上した大きな理由としては、使用している素材の一部をヴァージンポリエステル(*4)から再生ポリエステルへ変更し、さらに一般的なコットンからオーガニック認証のコットンへ変更したことが挙げられます。
また、品番数が増え続けているなかでも、CFCLの定番品の素材をどれほど再生繊維に置き換えていけるかを、商品の企画段階から考慮し選択していくことによって、再生素材の高い使用率を維持し続けています。これら取り組みの結果、VOL.4に比べて認証素材使用がどれほど増えたかについては、以下の図2をご覧ください。
私たちが認証素材の使用率を上げていくことに注力している主な理由は、「使ったら廃棄」という「一方通行の流れ」から廃棄せずに生まれ変わらせることによって、循環型の社会を築くことができ、少しでもファッション産業に変容をもたらすことができると考えているためです。
「一方通行の流れ」は温暖化の原因となる温暖化ガスの排出に直結するため、再生されることが重要です。
2023年には八重洲店・六本木店・阪急MENS大阪店と直営店舗がさらに増えたことで、より多くのお客様にCFCLを知っていただき、商品を手に取っていただける機会も増えました。商品数の増加に伴い使用する糸の量も増えていくため、再生素材の使用率を上げることでさらなる資源の保全を促進していきます。
*4:プラスチックであるポリエステル製の糸で、原油を一から採掘して生産する作り方。温暖化ガスの排出が、再生素材に比して平均50%以上高いという研究結果が主流。
CFCLが設立された2020年、日本政府は2050年までに温暖化ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを達成することを宣言しました。私たちは、脱炭素・低炭素の重要性を認識し、2050年よりも20年早い2030年までにカーボンニュートラルの状態を実現する目標を掲げて活動を続けています。
この目標へのアプローチとして、VOL.1より継続して行っているLCA(ライフサイクルアセスメント)を今回も実施し、195型中82型(約42%)の算出をしました。
今回のレポートでは、以下3つの具体的な取り組みをご紹介します。
Ⅰ.動物性繊維を使用した商品の算出
Ⅱ.植物性再生繊維を使用した商品の算出
Ⅲ.再生ポリエステルへ置き換えをした商品の算出 排出量を20%削減
Ⅰ.動物性繊維を使用した商品の算出
主にVOL.2から秋冬シーズンに継続して使用している動物性繊維のウールについても対象算出範囲を拡大しました。
ウールの糸は羊の毛を原料として作られる繊維です。私たちの使用しているウールはオーストラリア産の原毛です。紡績加工は中国の工場、染色は日本の工場でおこなわれています。
国内外のサプライチェーンにかかわる温暖化ガスを把握するために、各サプライヤーに協力を依頼し調査をおこないました。しかし、原料を調達している牧場の特定、紡績工程でのエネルギー使用量など、特に海外の工程において詳細を特定することが叶いませんでした。そこで今回、代替案として海外の工程についてはオーストラリア産ウールに関わる文献を参照し算出を行いました。算出結果は図3をご覧ください。
検証の結果、ウール製品の排出量は、服一着あたり平均しておよそ25.5kg-CO2eの温暖化ガスが排出されるというデータと比較すると(*1)、重量の重いジャケットやパンツにおいて高い排出量で生産されています。工程別だと原料の調達部分(羊の放牧・飼育・原毛の収穫)での排出量が約80%以上と、大きな割合を占めていることが判りました。(図4)
*1 環境省「ファッションと環境」調査結果
原料製造〜ニッティング〜お客様着用後の廃棄まで全工程別の分布
比較をすると分かるように、これまで公表してきたCFCLの衣服の温暖化ガス排出量に比べてウール商品の排出量の多さが際立つ結果となりました。主な理由は、図4で示したように、原料調達工程での排出が全体の7~8割以上を占めますが、これは石油由来のヴァージン素材を用いたポリエステルの糸であっても、ほぼ同じことが言えます。ですから、私たちは出来る限り多くの再生ポリエステル素材を継続して使用し続けることで、結果として、ほとんどのPOTTERYシリーズで5.0Kg-CO2e以下の排出量にとどめることを実現しています。つまり、ウールにおいても同様に再生ウールの使用が最大の課題となります。日本では既に再生ウールの生産が可能なことを私たちは認識しており、今後それらを採用したものづくりができるかということです。
今回検証したウールのサプライチェーンでは、炭素排出だけではなくあらゆる面における透明性の確保についての課題が見つかりました(詳しくは以降のCOMMUNITYで記述をしています)。温暖化ガス排出や水の使用量においても、あらゆる面での環境負荷が認められることになります。今後CFCLとしては、原料調達から素材加工における透明性を担保した素材の選定と使用を実現するべく取り組んでいきます。
今回の取り組みの結果として分かったことは、私たちが販売を促進するうえで、購買意欲がなくなるような結果を認識したことも事実です。ですが、私たちはアパレル業界での調達ポリシーが変容していくことを期待して、現時点ではネガティブだと思われる部分も公表することにしました。将来的に、お客様をはじめ同業他社、生産者、メディア、学術機関など多くの方とともにより良いサプライチェーンになっていくことが私たちにとっての成果指標だからです。
Ⅱ.植物性再生繊維を使用した商品の算定
CFCLの製品の多くは再生ポリエステルを使用しています。
今コレクションでは全素材のうち82.3%をポリエステルが占めており、そのうち78.5%はペットボトルをリサイクルした再生ポリエステルです。リサイクルされていないヴァージンポリエステルは石油に由来し、温暖化ガスの排出に直結する繊維であるため、私たちは再生ポリエステルを積極的に選択し、LCAの実施を進めてきました。
これまでは、主力商品における再生ポリエステルの算出を中心におこなってきましたが、今回からはVOL.1より継続している、植物残渣(ざんさ)を再生して作られた糸と、ヴァージンポリエステルの混合糸で作られたTシャツ商品の算出にも新たに着手をしました。再生ポリエステル同様に、これらアイテムはCFCLのクリエイションにおける挑戦と多種多様なデザインを支えている素材であるためです。2年前からサプライヤーと協議を重ね、この度算出することが叶いました。
今回算出した商品は、VOL.1よりリリースされ続けているCFCLのベーシックなアイテムです。今後は主力商品のみならずベーシックなアイテムにおいても、私たちは生産の背景や作り手となるサプライヤーたちとの取り組みをこのレポートでお伝えしていきます。その結果は図5をご覧ください。
今まで算出してきた商品と比較すると、重量ベースでの温暖化ガス排出量が大きくなりました。過去に算出済みのPOTTERY DRESS(半袖)3.49kg-CO2e/1pc(540g)と比較しても大きいことが分かります。
今後の課題としては、以下の2つがあげられます。
Ⅰ.ヴァージンポリエステル部分を再生ポリエステルに変更すること
Ⅱ.自然エネルギー(太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギー)調達の環境下での商品製造
これら課題を解決するため、Ⅰについては、ヴァージン素材を使用している部分を再生素材への置き換える可能性を模索すること、Ⅱについては、優先順位高く生産工場と引き続き連携し、自然エネルギーの調達の取組みを進めていく計画をしています。
Ⅲ.再生ポリエステルへ置き換えをした商品の算出 排出量を20%削減
再生素材を使用することの重要性を前述してきましたが、その結果が顕著な成果を以下でご紹介します。
VOL.5のレポートにて、LCA数値を公表したMILAN RIBジャケットとパンツのセットアップシリーズ。
VOL.6での検証の末、再生ポリエステルへ素材を置き換えたことによって、ライフサイクル全体を通しておよそ20%も排出量を削減していることが判りました。
前シーズン算出当時の課題のひとつに、再生素材使用率が18〜19%と低いことがありました。温暖化ガス排出量の40%がヴァージンポリエステルを起因とする排出であり、再生素材率を極力高める必要がありました。
ヴァージンポリエステルを再生ポリエステルに置き換えるべく、およそ2年前からサプライヤー各社への協力依頼を続けた結果、VOL.6ローンチのタイミングで再生ポリエステル100%を使用した製造が叶いました。
再生素材100%に変わったMILAN RIBの温暖化ガス算出結果は図6をご覧ください。
過去に出された温暖化ガス排出量レポート(*2)と比較すると、ジャケットにおいては、一般的な女性用ジャケット一着あたり18kg-CO2eの温暖化ガスより、およそ37%低い排出量で生産されていると言えます。
*2 CFP対象製品(製品詳細)|CFPプログラム(cfp-japan.jp)
原料製造〜ニッティング〜お客様着用後の廃棄まで全工程別の分布
加えて、主にどの工程で温暖化ガス排出量を大きく削減をしたのかを図7で説明します。
ヴァージンポリエステルから再生ポリエステル100%に置き換えることにより、原料の調達における割合が減少しました。今回置き替えの対象になった糸の原料調達部分のみで考えると、約70%の温暖化ガスを削減することができています。
また、再生素材使用率が18〜19%から100%に変わったことによって、リサイクルとして使用したペットボトルの本数も増えました(図8)。VOL.1より発表し続けている主力商品における使用率を100%まで引き上げることができたのは、廃棄を回避して再生を促進する「循環型社会」の形成に繋がる進歩だと私たちは考えています。
今回、ヴァージンポリエステルを再生ポリエステルに置き換えることによって、原料調達工程での炭素排出量を減らすことが叶いましたが、原料調達の工程以外においても、素材加工や商品製造で使用する電力などのエネルギーによる温暖化ガスの排出の割合が大きいことも事実です。
複数の糸を組み合わせたり付属を付け加えることでも、加工・製造にかかるエネルギー使用量に比例して大きくなります。一部分のみならず、ライフサイクル全体を通して温暖化ガスを削減し、2030年までにカーボンニュートラルを達成することが、私たちがLCAの算出を通じて課題認識をしている1番の理由です。
目的を達成するためには、透明性が確保された原料の調達や再生素材化、製造における自然エネルギー(太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギー)の導入、製品の回収・リサイクルの仕組みづくりによる商品使用後の廃棄回避など、やるべきことはまだ沢山あります。今後も、全ての工程における排出削減を目指しながら取り組みを続けていきます。
※LCA算出において参照としたデータベースや文献:
・IDEA2.3 (LCIデータベースIDEA version2.3, 国立研究開発法人産業技術総合研究所安全科学研究部門社会とLCA研究グループ, 一般社団法人サステナブル経営推進機構)
・Higg Product Tools Material Sustainability Index
・LCAを考える(一般社団法人 プラスチック循環利用協会(PWMI))
・日本容器包装リサイクル協会 2015年年次レポート
・ウツミリサイクルシステムズ株式会社データに基づく計算結果(計算は㈱産業情報研究センター)
・公益財団法人日本容器包装リサイクル協会 「PET ボトルのリサイクル効果の分析(平成28年度;平成29年7月修正版)
・Environmental impacts associated with the production, use, and end-of-life of a woollen garment-S.G. Wiedemann1&L. Biggs1&B. Nebel2&K. Bauch2&K. Laitala3&I.G. Klepp3&P.G. Swan4&K. Watson5
・Handbook of Life Cycle Assessment (LCA) of Textiles and Clothing (Woodhead Publishing Series in Textiles)
生産量の増加の中で、特定の動物性繊維の使用量が多くなってきたことをレポートの冒頭でお伝えしました。それが全体使用量の10.39%を占めるウールです。今後も継続的にウールを使用していくためには、ステークホルダー・エンゲージメントを徹底した調達を行なっていかなければなりません。私たちが責任を持つべきステークホルダーは誰か?それは羊であり、牧場で羊毛生産をする人達、ウール糸の様々な加工を行う生産工場の人達です。ウールを調達する上で、彼らを欠かせないコミュニティとして捉えています。最初に私たちの調達先である日本の愛知県のサプライヤーの方々の協力をいただきながら、各種調査を進めてまいりました。その結果、今回分かったことを以下の図9に示しています。
・動物福祉:ノンミュールジング、生活環境
動物福祉はウールのサプライチェーンにおいて重要な問題です。ミュールジングとは、羊の臀部に寄生する害虫の繁殖を防ぐために、子羊の臀部の皮膚や肉の一部を切り落とす施術のことで、近年動物福祉の観点から問題視されています。ノンミュールジングとは、その施術を行わずに飼育されることを指し、現在私たちが調達しているウール糸については、ノンミュールジングかの特定が叶いませんでした。また、羊がどのような環境下で飼育されているかも含めて確認が必要です。動物福祉については突き詰めると他にも課題があるのですが、現在私たちが向き合える課題として、ノンミュールジングと羊の生活環境を徹底している生産者を選定することが優先事項だと認識しています。
・労働環境:従業員の人権、労働条件、地域社会のへの経済効果
・加工方法:化学薬品使用における環境負荷や人体への影響、水の使用量
また、中国や国内工場で働く人達の人権や加工方法も、サプライチェーン全体に関わる課題です。全てのサプライヤーで働く人々の人権や労働条件が確保されているか、製造工程でどれだけ環境負荷がかかっているかを調べたところ、現状把握さえ難しいことがわかりました。なかでも、牧場でのウール原毛の生産から原料加工工程は、海外で行われており、これら工程の透明性を担保していくことが今後の課題です。加えて、私たちが求めるデザイン性と品質基準を満たすため、大半のウール素材で塩素系薬剤を使用した防縮加工がなされており、地球環境に負荷を与えている可能性が高いこともわかりました。今後、これらを使用しない代替方法を企画と製造方法の両面から模索していきたいと思います。
調査の結果として、ものづくりの工程とその背景を確認していく段階で、海外の生産拠点における現場と直接コミュニケーションを取ることさえ難しいという現実に辿り着きました。世界三大毛織産地である愛知県のサプライヤーの協力をいただきながら温暖化ガス排出量の算定に臨みましたが、生産設備の老朽化や深刻な人手不足などにより、作業は困難を極めました。
オーストラリアの通常の商慣習では、刈り取られた原毛はオークション会場に集められて、卸売が行われます。図9にあるように、結果として、その後の工程が行われる中国へ輸出される際には、すでに牧場の特定が難しいという構造が存在します。生産者とのダイレクトトレードが出来ていれば、情報を入手することが難しいというのはあり得ませんが、現在のウールのサプライチェーンの構造は、オーストラリアであれ、中国であれ、大量の商品を一括して販売するというビジネスモデルが定着しており、そこに介在する商社や関連企業でさえも最も重要なウールそのものの現場を把握できていない、という実態があります。私たちが日本国内での生産や地産地消をB Corpとしてポリシーとしていることの根本的な理由がここにあります。
ウールには、吸湿発熱性や消臭性、けん縮から成る膨らみや風合い、製品にした時の光沢や上品さなど、沢山の良い特徴があります。技術の発展によりウールに近い合繊繊維が世の中には存在していますが、それらは現時点ではまだウールとは置き変えられない品質のものとして私たちは捉えています。
今後の素材調達においては、今回挙げた課題を徹底できるサプライヤーへ協力を依頼し、透明性を確保したものづくりを進めていきます。それが、ものづくりを行い製品を販売する上でのお客様への説明責任を果たすことだと考えるからです。すでに、サプライヤーの方々とは新たな調達先についての話を開始しており、VOL.10(25年秋冬シーズン)からの切り替えを目標としています。