2022年7月28日にCFCLがB Corporationに認証されてから2年が経とうとしています。設立当初から衣服を通して私たちの抱えるステークホルダー「地球環境・社員・顧客・コミュニティ」へのベネフィット創造、そして社会的に責任のある会社の運用「ガバナンス」の5つの軸を常に意識して事業活動を実施してきました。認証を取得してからの2年間、会社の規模も大きくなり、扱う素材や製造に携わる会社や人、そして私たち従業員も大きく増え、新たな問題や課題の発見、それにともない挑戦すべき領域が大きくなってきたと認識しています。来年に再認証を控える私たちは、より責任を持った事業活動を行うべく、サステナビリティに関わるチームの再編成を行い、会社全体で再認証の取得に向けて取り組んでまいります。
そこで、VOL.7コレクションを通して行った活動を以下にてご報告します。
1. 素材の調達
地球環境および生産者の労働環境への責任が保証された素材使用率の向上
2. LCA(ライフサイクルアセスメント)
オーガニックコットンを使用した製品の検証結果
撥水加工の糸を使用した製品の検証結果
バッグアイテムの検証結果
3. コミュニティへのベネフィット創造
グローバル人材の採用
柔軟な勤務体系
社員スキルアップ研修、制度
図1
*GRS(グローバル・リサイクルド・スタンダード)は2008年にControl Union Certificationによって策定され、2011年にTextile Exchangeに譲渡された認証プログラムです。GRSは、リサイクル含有物、加工流通過程管理、社会および環境慣行、化学物質規制の第三者による認証要件を設定する、国際的な製品基準です。
*GOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)は代表的な国際基準策定機関によって、原料の収穫から社会的に責任のある製造を経て、消費者に信頼できる保証を与えるラベリングに到るまで、「繊維製品が正しくオーガニックである」という状況を確保する世界的なルールを定めるために開発された国際的な世界基準です。
*RCS(リサイクルクレームスタンダード認証)は、最終製品に含まれる原材料に5%以上の再生材料を含んでいるかどうかを審査する国際認証です。
*今回の集計にボタン、ファスナー、紐、ウェストゴムなどの付属資材は含まれておりません。
「90.52%」
これは、CFCLのVOL.7コレクションにおいて、地球環境および社会的責任に関する国際的な基準を満たしている素材の使用率です。これまで発表したコレクションの中で最も高い結果となりました。(図1)
同じ春夏コレクションであるVOL.5と比較すると、認証素材使用量は約1.5倍となりました。(図2)
理由としては以下の2つが挙げられます:
・VOL.6の時点でヴァージンポリエステルからリサイクルポリエステルに素材変更をしたMILAN RIBシリーズの影響により、リサイクルポリエステル(GRS認証)使用率が約10%増加し、ヴァージンポリエステル使用率が約17%減少しました
・オーガニックコットンを使用した商品の増加により、オーガニックコットン(GOTS認証)使用率が約5%増加しました
図2
私たちは、再生素材を積極的に使用することによって、新しく資源を採取するのではなく再利用する形で循環型社会に貢献すること、また認証素材を積極的に使用することによって、環境側面に加え生産者の健全な労働環境が保証されることを重視して調達を行っています。
今回は認証素材取得率が90%以上と高い結果となりましたが、全ての素材において地球環境・社会的責任を果たしたものづくりができているかというと、まだ解決すべき次のような課題が残されています:
・残った4.7%のヴァージンポリエステルの再生素材化
・ナイロンやポリウレタンなど、その他石油由来製品の再生素材化
・秋冬コレクションに使用する動物繊維の認証素材化
私たちはこれらを解決し達成するため、サプライチェーンの皆さまとの取り組みを続け、再生素材の比率を上げ続けること、なおかつ2030年までに認証素材100%を使用したものづくりを実現していきます。
ファーストシーズンからLCA(ライフサイクルアセスメント)を開始し、今回で7回目となりました。シーズンを追うごとに算出品番を増やしていき、VOL.7では232型中138型(約59%)の算出をしました。
CFCLが設立当初から目標としている「2030年までのカーボンニュートラル達成」を目指しLCAを算出していますが、同時にクリエイションの幅を拡張するため、シーズンを追うごとに扱う素材や付属が増え、新たな課題や挑戦すべき領域が大きく、深くなってきたと認識しています。
私たちはLCA算出において、実績に基づいたデータ取得を目指しています。国内の製造工程においては、各サプライヤー協力の下、エネルギー使用量を実績値で拾集していますが、国内外に渡る長く複雑なサプライチェーン構造、ファッション産業全体としてLCA算出が浸透・標準化しきれていない現状もあり、多くの工程において実績値の取得が難航しています。そのため、実績値が取得できない部分については、日本のLCI(ライフサイクルインベントリ)*1データベースを利用してLCA算出をしていますが、実績値取得割合を広げるため、日々サプライヤーとのコミュニケーションを続けています。
今回のレポートでは、以下3つの具体的な取り組みをご紹介します:
Ⅰ. コットンを使用した商品の算出
Ⅱ. 撥水加工の糸を使用した商品の算出
Ⅲ. バック”STRATAシリーズ”の算出
*1 LCI(ライフサイクルインベントリ)データベースとは、製品やサービスのライフサイクル全体にわたる環境影響を定量的に評価するためのツールのこと。CFCLでは主に産業技術総合研究所、産業環境管理協会によって共同開発されたIDEAを使用しLCA算出を行っている。
Ⅰ. コットンを使用した商品の算出
図3
前回のVOL.5と比較して、オーガニック認証(GOTS認証*2)コットンの使用率が約5%増加しました。清涼感のある素材として、サプライヤーに依頼して開発されたインドのオーガニックコットンとペットボトル由来の再生ポリエステルの複合糸を使用した、CASCADES、TC MILAN RIB、TC STRATUM、TC HIGH GAUGE、TC GARTERシリーズを含む合計18型と展開型数が増加しました。
再生素材の使用率向上は私たちの目標指標の一つですが、現在市場にあるリサイクルコットンの品質がCFCLにおけるデザイン上の品質基準を満たしていないため、現時点では私たちの選択肢には含まれていません。私たちが通常のコットンであるコンベンショナルコットンではなく、コットン全体生産量のわずか1.4%(*3)であるオーガニックコットンを使用する理由にも以下のようなことが挙げられます:
・有害な農薬や化学肥料を使用せずに畑の土壌環境に配慮した栽培方法を保証している
・働く人たちの人権や安全、健康、労働環境を考慮している
オーガニックコットンのLCA算出は、各国地域の栽培方法や気候条件に影響されるため、LCAの平均値を取ることが難しい側面があります。現地サプライヤーからの情報収集が困難であったため、今回のLCA算出ではコンベンショナルコットンのLCIデータベースを使用し、以下の課題を把握しました。算出結果は図3をご覧ください。
また、再生ポリエステルよりもCO2排出量が大きいことが明らかになりました。製造工程上の違いはあるものの、製品重量の近い再生ポリエステルを使用したPOTTERY SHORT BELL SLEEVE FLARE DRESS (521g)2.39kg-CO2e/1pc と比較しても大きいことが分かります。(図4)
※POTTERY SHORT BELL SLEEVE FLARE DRESSはニッティング工程の工場で非化石証書(*4)を取得し、1.83kg-CO2e/1pcをオフセットしているため、実質排出量は2.39kg-CO2e/1pcとなります。
図4
加えて、現地生産者との直接的なコミュニケーションが取れないため、オーガニックコットンの実績に基づいたCO2排出量を測定できませんでした。
上記の課題が明らかとなりましたので、VOL.8からは協業するオーガニックコットンの原料サプライヤーを変更します。彼らはインドの現地農家と種選定や綿花栽培から着手し、トレーサビリティの担保と地域貢献にも取り組んでいます。今後は以下を目標指標として、進捗をコンシャスネスレポートにて報告していきます。
・使用しているオーガニックコットンの実績に基づいたLCA算出の実施およびコンベンショナルコットンとの比較検証
・地域生産者へのベネフィット貢献
・カーボンニュートラルを見据えたリサイクルコットン使用の調査
*2 GLOBAL ORGANIC TEXTILE STANDARD https://global-standard.org/downloads
*3 Textile Exchange, Organic Cotton Market Report 2022,17P
https://textileexchange.org/app/uploads/2022/10/Textile-Exchange_OCMR_2022.pdf
*4 再生可能エネルギーなどのCO2を排出しない非化石電源から発電されたことを証明する環境価値の証明書。
Ⅱ. 撥水加工の糸を使用した製品の算出
図5
今回のコレクションで採用した素材は、ペットボトル由来のリサイクルポリエステルに撥水加工を施しています。これにより編み地の特性と併せ、生地には張り感と立体感が生まれ、特徴的なフォルムを作ることができます。
上図にあるMESH、HYPHAシリーズの素材として初めて採用し、今後もより多くのアイテムにも使用する予定です。この素材の環境への影響を評価するために、LCAの算出に取り組みました。数量としては7品番、全体の約2.4%に使用している素材です。排出量の結果は図5をご覧ください。
近年、アパレル業界で広く認識されている規制として「PFAS(有機フッ素化合物)」*5の制限があります。PFASは撥水剤に含まれ、自然界で分解されずに残る可能性があることから、多くのグローバルブランドが使用を見直しています。この素材で使用されている撥水剤が、2025年1月よりアメリカの一部州で規制されるC6撥水剤(PFHxA)であることが昨年判明しました。その後、C6撥水剤から別の撥水剤への切り替えを模索しましたが、私たちがデザイン上求める品質を維持しながら、コレクション制作と並行した量産の安定性まで実現することが、非常に困難であることがわかりました。
企画時における撥水剤の業界認識が不足していた問題につき、今後は組織体制を見直し、素材選定の段階から適切な判断ができるように改善していきます。また、以下の対策を実施します:
・VOL.9(2024年12月)からC0撥水剤へ切り替え(VOL.8まではC6撥水剤を使用)
・撥水材を使用しないための原料サプライヤー/ニッティング工場と協力した素材開発
*5 環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議(第1回)議事次第・配付資料
https://www.env.go.jp/water/pfas/pfas_00001.html
Ⅲ.バッグの算出
図6
これまでCFCLでは、衣服におけるLCA算出を行ってまいりましたが、今回、初めてバッグアイテムのLCA算出にも挑戦しました。算出したのは、VOL.3より継続しているSTRATAシリーズです。ピンタックとリブを組み合わせたユニークなシルエットで、サコッシュやナップサック、トートバックなどさまざまな種類を展開しています。
ストラータシリーズの製品・製造の特徴は以下の通りです:
・ペットボトルからリサイクルされた再生ポリエステルを使用
・金属(真鍮や亜鉛)由来の付属品を使用
・製品強度を保つため一部熱融着糸(ヴァージンナイロン糸)を使用し、熱加工を施す*6
*6 熱融着糸(ヴァージンナイロン糸)は、熱加工により融着した部分が固くなることで製品補強の役割を担っている。熱加工後、樹脂形状に変化することから、繊維製品の組成表示上、完成品としては再生ポリエステル100%の製品として扱っている
上記にある付属品や特有の熱加工を含め温暖化ガスを特定するべく、原料調達から素材加工、商品製造、輸送において各サプライヤーへ協力を依頼し、調査を実施しました。
付属品について、一部は国内調達の再生金属100%で製造されたパーツもありますが、多くはオーストラリアなど海外から鉱物を輸入し、製造されているパーツです。今回の調査では、海外および一部の国内の工程においてサプライヤーとのコミュニケーションが難航し、情報を特定することが叶いませんでした。
よって今回は、それらの工程において、LCIデータベースや文献など*7を参照して算出する運びとなりました。算出結果は図6をご覧ください。
検証の結果、以下の素材が要因であることが判明しました。
・ 熱融着糸(ヴァージンナイロン糸)
重量ベースでは全体の4%ですが、排出量全体の12%を占めています。これは熱融着糸が新たに石油採掘して調達するヴァージン素材であり、温暖化ガスの排出に直結するためです。
・ 金属付属品
金属付属品の排出量は製品重量により異なりますが、全体の7%〜36%程度を占めています。特に、複数の化学薬品を使用するめっき工程で排出量が大きく、金属加工工程における排出量の約90%はめっき加工に由来しています。
これまでのレポートを通じて、石油由来のヴァージン素材を使用している商品については温暖化ガスの数値も高くなることをお伝えしてきました。そのため企画段階から再生素材を選択すること、それがすぐに叶わない場合でも再生素材への移行を実施することを念頭において調達を行い、実際にVOL.6で報告したMILAN RIBシリーズなど、再生素材への置き換えを適宜実施しています。今シーズンでは全体のうち約8%に石油由来のヴァージン素材を使用しており、これらにおいてCFCLの求めるデザイン性かつ機能性を実現する代替素材を見つけることは簡単なことではありませんが、今後もメーカー各社と協議を続けて素材切り替えの可能性を模索し続けます。
また金属付属品についても、VOL.8コレクションよりSTRATAシリーズのデザイン段階で金属付属品の使用量を減らす工夫を行い、使用箇所を2箇所から1箇所に削減しました。それと同時に金属調達における情報がまだ私たちに豊富ではないため、他社事例をふまえ、より適切な選択について調査を続けていきます。
*7 土井 正.”めっき液成分の管理”.公共社団法人 日本分析化学会.200605kougi.pdf (jsac.or.jp)
LCA算出において使用したデータベース:
・LCIデータベース IDEA version 3.3 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 IDEAラボ
私たちは創設当初からグローバル企業を目指し、より多様でライフスタイルに合わせた働き方を実現する会社を目指したいと考えています。会社の規模が大きくなるにつれ、様々なバックグラウンドを持つ従業員が増え、働き方など多様性を考慮しながら柔軟に対応しています。
また、冒頭でお伝えした通り、現在B Corporation再認証に向けて日々活動を続けています。B Impact Assessment*8の質問数も会社の規模が更新されたことにより40問ほど増え、Workersの分野においてもより柔軟で多様な職場環境を提供することが必要になりました。回答する中で、各質問の基礎知識となるJEDI*9を理解することが困難で、私たちの理解が十分ではないことも認識しました。理解を深めるための勉強を行っていくと同時に、私達がJEDIに対してどのようなことを実施できているか確認した内容を下記に報告します。
*8 B Impact Assessmentとは、B Corporationの認証を受ける際に、B Labが企業を評価するために必要な設問のこと
ウェブサイト https://www.bcorporation.net/en-us/programs-and-tools/b-impact-assessment/
*9 JEDI(Justice(正義)、Equity(公平性)、Diversity(多様性)、Inclusion(包括性))
Ⅰ. グローバル人材の採用
図7
現在CFCLで働く外国籍社員の割合は全体の13.5%に及び、海外在住経験がある社員を含めると26.9%がグローバル人材となっています。採用方法は多岐にわたり、NPO法人のWELgee社*10からの紹介により採用に至ったウクライナ国籍の正社員もいます。私たちは、多様なバックグラウンドにかかわらず、当人のスキルや可能性を評価し、柔軟で多様な職場文化を広めていきます。
*10 NPO法人WELgee ウェブサイト:(https://www.welgee.jp/programs)
Ⅱ. 柔軟な勤務体系
私たちは勤務体系に、フレックスと週3回までのリモートワークを導入しています。子供を持つ社員、地方や海外で働く社員など、様々なバックグラウンドを持つ人々が働ける職場環境を整えることで、社員へ柔軟な働き方を提供しています。日本では、働き方改革関連法や女性活躍推進法など、女性が働きやすい社会を作るための取り組みを国が行っていますが、一般的には未だ女性の家事育児負担は重く、働く際のハードルとなっています。特にフルタイム勤務を望む女性にとっては、出社と固定時間制度という勤務体系は、子供のお迎えやご飯の準備などから難しく、時短勤務を選択せざるをえない現状があります。現在CFCLには子供を持つ社員が全社員の29%おり、その内の72%が女性ですが、フレックス・リモートワークを採用する社員は全員フルタイム勤務を実施しています。中には、前では育児と両立してのフルタイム勤務が難しいため、育休明け勤務先としてCFCLに転職し、フルタイム勤務を実現している社員もいます。
また、4月より海外在住の業務委託メンバーと契約し、時差のあるフルリモートワークの運用も開始しています。
今後はフルタイムおよびフルリモート導入も視野に入れ、グローバル人材や、各事情により出社勤務が難しい人材の採用も積極的に進めていきたいと計画しています。
Ⅲ. 社員スキルアップ研修、制度
図8
社員それぞれのスキルアップのため、ファッション社会学、ファッションに関する法律、決算報告の読み方、MDの基礎、香水のワークショップ、エクセルの基本など、様々な分野で原則月1~2回全社員に向けて社内外の有識者を呼んで勉強会を実施しています。その他にも、英語、日本語、フランス語、中国語など第二言語を強化するための語学学習制度を導入しています。また、クリエイティブディレクターと同じ文化資本を共有し、デザインの意図やブランド理解を深めるため、年に4回指定された美術展や展覧会を鑑賞できる制度を設けています。
今後も、柔軟で多様な職場環境づくりを促進させるため、公募により集まった社員が主体となり、私たち独自の制度化を目指す福利厚生プロジェクトや産休育児プロジェクト、普段と違った土地で仕事をしながら休暇を取るワーケーションの導入プロジェクトの計画も進めています。また、JEDIについても、会社全体で理解を深めるための勉強会に向けた準備を進めていきます。